会社の都合で自分の希望とは違う職種に配転されることは法律に違反しないのでしょうか?
学生の質問
テレビ局にアナウンサーとして内定をもらったのですが、アナウンサー以外の職種をしたくないと思っています。会社の都合で私の意思に反してアナウンサー以外の職種に配転されることは法律に違反しないのでしょうか。
弁護士の回答
まず、前提として、本人と会社が合意をすれば、他の職種に変わることは問題ありません。質問された方も社会に出て長い間アナウンサーとして活躍される中で他の職種を経験したいと思うこともあるかもしれません。
しかし、まだまだアナウンサーとして活躍したいのに他の職種への配置転換を打診され、断ったのに会社が配転命令を出してきた場合にどのような条件で配転命令が適法となるか一緒に考えてみましょう。
まず、配転命令が適法になるためには、①配転命令を根拠づける規定等が存在する必要があります。これについては、ほとんどの場合には就業規則か労働契約に「業務上の都合により配置転換、転勤を命じることができる」と記載されています。ですので、ほとんどのケースでこの要件は満たすと考えます。
次に、配転命令が適法になるためには、②職務内容を限定する特別の合意がないことが必要となります。労働契約書に職務内容を限定することが明記されていれば、②の要件を欠くことになり会社の配転命令が違法となります。
そのような限定が労働契約書にない場合でも、特殊な資格や技能を有する病院等における看護師や検査技師は、この特別の合意が認められやすくなっています。
今日のように技術革新や事業再編成が多い状況では、職務内容を限定する特別の合意が認められにくい傾向にあると言われています。この特別の合意が裁判上認められたものとして、セールスエンジニアへの配転が命令されたケースにおける技術師について特別の合意を認めた裁判例があります。
逆に認められなかった例として、雑誌等の編集記者、専門学校の教員や航空会社のフライトアテンダントなどがあります。
最後に③強行法規違反がないこと及び権利濫用に該当しないことが必要となります。強行法規違反については、性別を理由とする差別(雇用機会均等法7条)や不当労働行為(労働組合法7条)などに違反しないことが必要です。
権利濫用に当たらないことについては、a業務上の必要性、b不当な動機・目的、c従業員への著しい不利益やd手続きの妥当性などを考慮して判断されます。
具体的には、配転命令が労働者を退職に追い込む動機・目的で出された場合には配転命令が不当な動機・目的があるとして、無効とした裁判例があります。また、専門職のキャリア形成の期待への配慮の欠如を権利濫用を基礎づける従業員への著しい不利益として無効とした裁判例があります。
ここで、ご質問についてお答えすると、実際にこのような配転命令が出されてしまった場合には、まず就業規則や労働契約等を確認してください。①配転命令を根拠づける規定等が存在する必要があるという条件は満たすケースがほとんどだと思います。
次にあなたの労働契約書に「職務内容はアナウンサーに限定する」と書かれていれば、意に沿わない配転命令は②の要件を満たさないとして無効となります。
そのような記載が無かった場合には、アナウンサーという仕事が職務内容を限定する特別の合意が認められるかですが、裁判において職務内容を限定する特別の合意が認められたケースと認められなかったケースがあります。ですので、アナウンサーというだけで、職務内容を限定する特別の合意があると判断されるかが確実ではないので、②の要件を満たさないとして配転命令が無効であるとまでは言い切れません。
配転命令が①と②の要件を満たした場合には、最後に、③強行法規違反がないこと及び権利濫用に該当しないことという条件について、上記にあげたaからdの要素の具体的事情について検討していく必要があります。ですので、結論もその検討結果次第ということになります。
現実のケースでは、③の有無が争われることになる場合が多いと考えますが、③の要件を満たさず配転命令が無効であると立証することは簡単ではないので、意に沿わない配転命令が出されないように会社に自らの価値と意思を認められるような人材で居続けることが重要と考えます。
希望していた職種に採用をもらったのに、勝手に配置転換をするのは企業側の詐欺だなと感じました。具体的な事例をもとに法的にはどのように対処されるのか説明されていてわかりやすかったです。