就活中のみなさん
就職と結婚は、つまるところ『縁』です。
そうはいえども、縁があるのかないのか?目の前の縁を選ぶかどうか・・・。
決断を下す前には、努力しても選ばれない辛さを味わい、受験とは比較にならない迷い、悩み、落胆、悲壮感。重苦しい時期を過ごしますよね。
私もそうでした。
大学時代は演劇にハマって、漠然と新聞記者になりたいなー、だけどロクに準備もせず、就職活動はかなり出遅れました。男女雇用均等法1期生の私たちにOB・OG訪問先もほとんどなく、四大卒の女子を採用する企業は稀でした。あるメーカー企業のリクルーターがゼミに来られ、企業説明したのですが、私には一瞥もくれず…。鼻から「対象外」と烙印を押されたような暗澹たる気持ちになりました。
当時は、就職情報を資料請求のカタログ、大学女子寮の口コミ、大学の学生会から入手し、説明会や面接に向かっていました。

そもそも採用枠が少ないため、大卒女子の枠がある、と女子寮同期から聞いては向かっていく。業界研究も自己分析も行わず、見事にミスマッチも起きていました。
企業人事担当からは、面と向かって「四卒はねえ・・・」「自宅生じゃないからねえ・・・」(当時、金融機関の多くが、下宿生は信用がないとみなし、採用していませんでした)と、そんな理不尽な理由を言われることもありました。
あるスポーツメーカーの2次面接では、人事部長から保有資格の質問を受け、秘書検定三級なら持っていると答えました。すると人事部長は
「あなたね、秘書って仕事をわかってるんですか?ロータリークラブや大企業の経営者に応対するんですよ。あなたには無理‼
あなたはディーラー担当です!」
とはっきり配属部署を言われました。
でも、ディーラーって何だろう?ってきょとんとするくらい、こちらもボケてまして(-_-;
スポーツメーカーの特約店やスポーツショップを訪問する営業ですね。
「無理」という言葉だけがリフレインして、なにも考えられないフリーズ状態に陥りました。
しかし、化粧もしていない、礼儀も知らない、だけど勢いだけはあるな、と人事部長は見抜いておられたわけです。短時間で人事もプロ、若い学生が自分では気づかない適性を見ていると素直に思います。
そんな不勉強な私が、女子の人気ナンバー1だったJTBに入社できたのは、面接官との出会いの「縁」に恵まれたから、に尽きます。
変人の匂いがしていた私は、その方が面接官でなければ、採用されなかったと思います。たぶん「なんや、オモロイ子が来たな」って感じだったと思います。
受ける質問が他社とは全く異なりました。
「JTBの悪いところはどこか?」と質問され、「歴史のある大きな会社ですから、豆腐がカチコチになって、風通しの悪い高野豆腐のような会社だと思います。」とか答えて・・・、これでよく通過しました。
スポーツメーカーとJTB2社から内定をいただいた私は、旅行会社の業務内容が何か結局よく調べないまま、直観で自分の居場所はここだ、と決めたのでした。
あのスポーツメーカーの人事部長が言い当てた通り、JTBでは、新入社員なのに、アポなしで法人企業を突撃訪問する飛込営業担当になりました。四角くて重いビジネスバッグに紙のパンフレットを入れ、紙の地図をコピーし、大阪のビルを一軒一軒練り歩くわけです。制服は汗びっしょり、握力は40㎏を超え、社員旅行の女子腕相撲大会で優勝しました。

店頭では失敗ばかり。あるとき、バックパッカーの欧米の女性が切符を買いに来られ、カウンターで接客した私は、あろうことか 「Can you help me?」とお声をかけてしまったのです。彼女は爆笑し、私もつられて泣き笑いしたり。
あるときは、閉店時間を迎え、お客様が「出口はどこですか?」と質問されたので、後ろを振り向いて「出口さん、お友達ですよー」と先輩の名を呼んでしまったり。と、失敗ばかり繰り返していました。ついにあだ名は「プッツン」(不思議ちゃんというニュアンスに近い)と名付けられてしまいました。
毎日失敗続きの私は、夜になるともう消えてしまいたいと反省の日々。傷つきやすくもろかったなあと当時を懐かしく思い返します。
落ちこぼれながら、与えられた仕事を一所懸命にするうちに、リピーターのお客様がつくようになりました。
私はカウンターに来られる顧客のご家族の誕生日にもお電話をかけ、ご家族のご様子を伺うほど親しくさせていただきました。
ある日、「この仕事は、お客様の人生の伴走だ」と閃きが走りました。
旅行業という仕事の素晴らしさは、旅に出かけるお客様の願いを伺うことが出来、人生の幸せの瞬間を作ることができるだけでなく、いつまでも思い出を共有する伴走者でいられることなのです。「記憶」こそがサービス業の真髄で、ロボットやAIをサポートツールとして活用する時代に入ったと思います。
仕事の価値に気づいたとき、得られる喜びが変わってきます。
お客様や取引先、仕事仲間も自分のファンになってもらえると、苦しいことが起きても乗り越えることができます。
いいかえれば、躓き、逆境や苦難が起きても、そこに何か意味があるんだろう、教えてくれるヒントがここにあるはずだ、と前向きに感じられるようになりました。
2018年7月7日、西日本豪雨被災で真備町にある実家と居宅が全壊しました。
避難したまび記念病院から見える景色は孤島の海、まるで、お椀のなかに浮かんでいるかのようでした。遠くに見える高梁川の土手を普通に車が通行している様子が見えました。自分たちだけが、異常な世界に浮かんでいる。いっしょに連れ出したトイプードルも30時間まったくオシッコをせず、餌もたべませんでした。
戦争や被災体験、深い喪失体験を経験したひとは、それ以前の自分にはもう戻れないといいます。世界の見え方が変わってしまうのです。
「命=終わりのある、限られた時間」とすると、その命を使うことを、「使命」と呼ぶ。敬愛する田坂広志氏の本を読み、なにかストンと腑に落ちました。
私にとっても豪雨被災から、それまでの仕事の関係に説明のつかない断層が起き、自分の時間の使い方を変えることを決意したのです。

起業した会社のなまえ、EnPalは「縁のなかま」という意味です。
さまざまな出来事がありました。その中で残ったもの、その宝物が「縁」であり、思いを同じくするなかまと手をつないでいこう、という思いを込めました。
長い仕事人生の中で、なにに適性があるのか、どんなときに遣り甲斐を感じるのか、そして自分がなにをするために生まれてきたのか。すぐに答えが見つかるとは思いません。
経験して気づいたことのほうが多かったです。
ぶつかってみてけがをしてみて気づけることがある。
ぜひ、怖がらずに、「いまの自分」を感じてください。
きっと、ひとつめの縁に気づけると思います。

岡山県倉敷市
学歴
総社高等学校、神戸大学法学部卒業
職歴
1986年 JTB入社 大阪で飛込営業や営業本部情報企画室、マーケティング室主任研究員など13年経験
1999年 ㈱リゾームにパート入社、2007年より専務取締役。SC(ショッピングセンター)や流通小売業の顧客データ分析、出退店動向の分析を担当。SC専門のシンクタンク「SCトレンド研究所」を立ち上げる。
2020年 6月 ㈱EnPal創業 https://en-pal.co.jp
丸の中のお顔をクリックしてホームページに移動してください。
2018年 7月 西日本豪雨被災で、倉敷市真備町の実家と自宅2軒が全壊、被災をきっかけにボランティアを開始。地域社会と調和し持続的な発展を目指す法人、個人とともに、被災地から見えるまちづくりの根本的な課題、防災啓もう活動に取り組んでいる。
「就職と結婚は、つまるところ『縁』です。」最初のメッセージから、「わぉ」と思いました。確かに。男女雇用均等法1期生の就職活動は拝読したところ、ますます人との出会い方の『縁』が大事そうだと思いました。そのような境遇の中、金藤さまが企業を興すまでに到達なさったのは、最初の強いメッセージからも伝わる、金藤さまの人柄によるものではないか。そして、そういった機会を自分のものへと上手く持っていいった。その姿はぜひ、見習いたいと思いました。興味深いお話をありがとうございました!
コラム拝見させていただきましたが、金藤さんの「ぶつかってみてけがをしてみて気づけることがある。」というこの言葉が特に印象に残りました。JTB時代のお話や、被災した時の状況のお話など、さまざまな経験をされた金藤さんだからこその強い意味を持った言葉なのだと思いました。これは「挑戦」につながると思いますが、もし挑んでだめでもそれは自身の経験であり、自分の財産になるものだと私は考えます。
いろんな経験を経て、私も「縁」に気付ける人に成長していきたいなと思いました。
コラム拝見させていただきました。私自身も真備の近くに住んでおり友人やその家族の多くが被害にあいました。ボランティアで家の泥掃除や家電の移動など一軒掃除するだけでも相当苦労したのを思い出します。その時の家主さんの疲れ切った顔と申し訳なさそうな感謝の言葉が今でも忘れられません。私も近藤さんと同じように自分の時間の使い方について考えるようになりました。たくさんの経験を積み幸せだったと思えるように悔いのない就職活動にしたいと思います。ありがとうございました。
自分のしたいことは簡単には気がつくことはできないということがとても心に響きました。私も誰かの役に立つ仕事ができるようになりたいという夢はあるのですが、どのような形で貢献しようか考えると、自分が心からしたい!これだ!と思えることがまだ見つからずにとても焦りを感じていました。でも、色々なことをたくさん経験する中で見つけていきたいなと思っています。できることから行動を起こして自分のしたいことに精一杯時間を使えるようになりたいです。素敵なコラムをありがとうございました。