「靴を履いている人が非常に多くいる市場と、靴を履いていない人が非常に多くいる市場の2つの市場があります。あなたが靴メーカーのマーケティング担当者であれば、どちらの市場を狙いますか。また、その理由を聞かせてください」。
就活の面接で時々出てくる質問です。生成AIが出してくる回答は、前者はレッドオーシャン市場で後者はブルーオーシャン市場という捉え方をするパターンが多いようです。レッドオーシャン市場とは、競合が非常に多くいる市場のことで、「血の海」をたとえています。一方のブルーオーシャン市場とは、青い海のたとえで、競合がほとんどいない、もしくは少ない市場のことを言います。
前者の「靴を履いている人が非常に多くいる市場」というレッドオーシャン市場への参入は、すでに先行している競合他社と差異化を行い、シェアを奪取するという戦略が模範解答のようです。そして、後者の「靴を履いていない人が非常に多くいる市場」というブルーオーシャン市場への参入は、市場をしっかりと整理し、新しい価値を提供していくなどの戦略を採用するといいとのことです。
お気づきだと思いますが、どちらが正解というわけではなく、この質問の目的は、回答者の論理的思考能力を確認したいためがほとんどです。論理的思考能力とは、ロジカルシンキングとも呼ばれており、物事を論理的に捉えていく思考法です。
ちなみに論理的思考能力を重視するなら、もう一つの見方があります。それは、「靴を履いてはいていない市場」を「靴がいらないかもしれない市場」という視点で捉える見方です。「靴を履いていない人が多くいる」=「靴の市場がたくさんある」という見方は、一つの視点でしか物事を見ていません。「靴を履いていない人が多くいる」=「靴がいらないのかもしれない」という逆の見方も存在するのです。
この後者の見方だと、その先には、「靴がいらない理由を探す」という切り口がでてきます。もしかしたら、大多数の人がスリッパをはいているのかもしれません。あるいは、多くの人が丈夫な靴下を履いているのかもしれません。そうなると、「靴」だけに注目するのではなく、「スリッパ」や「靴下」も注目すべきで、そちらの市場が拡大するかもしれないのです。このような隠れているかもしれない要望(ニーズともいう)を「潜在ニーズ」と呼びます。
この「潜在ニーズ」はビジネスにおいて非常に重要です。なぜなら、多くの企業が「靴」に注目している中、自社だけ「スリッパ」「靴下」の商品を出すことができるからです。これこそが圧倒的な差異化となり、大きな成功につながるからです。
こういった手法で大成功を収めているのが、私が在籍していた「キーエンス」という会社です。キーエンスは、日本を代表する高収益企業で知られています。
また、給与が高い会社でも知られていますね。
なぜ、こういった高収益を生み出せるかというと、様々な理由があるのですが、私が一番大きいと考えるのが、「圧倒的な差異化を図る新商品」にあるとみています。私自身が、キーエンスで新商品を企画立案する仕事(世の中で言われるマーケティングの仕事)をしていたからこそ、余計にそう感じるのかもしれませんが、とにかく、発売する商品がすごくて、「世界初」「業界初」といった商品を連発するのです。
連発できる理由は、先ほどの「潜在ニーズ」を収集する仕組み、人のスキルが長けているからです。そして、その根底には、先ほどの論理的思考能力(ロジカルシンキング)がある、ということになります。
キーエンスという会社は、新商品の企画開発だけではなく、社内全体でこれを重視します。「どれだけ論理的に考えることができるか」。これがすべての仕事の効率化につながるという発想です。当たり前と言えば当たり前ですね。何か問題が発生すると、その問題の原因をどこまでしっかりと分析できるか。それによって解決策も変わり、効果や成果も変わってくるということです。
キーエンスという会社は、論理的思考能力の塊のような会社です。だからこそ、常に強い新商品を出し続けることができたり、販売の方が顧客の潜在ニーズを捉えて役立ち度の高い提案ができたり、社内の業務をより効率的にしたりすることができるのです。それが高収益へと繋がっているのです。
このような、「企業が持っている文化・考え方」は、就職する上で非常に重要だと思います。なぜなら、相性の問題ととらえることができるからです。世の中にはキーエンスのような論理的思考能力を重視する会社ばかりではありません。人間味を重視たり、従順さを重視したりする会社も多くあります。「就活生ご自身の性格、考え方と企業の風土、文化、考え方が一致するか」。これは、就職してから居心地がいいと感じるか、そうでないと感じるかにつながります。
ご自身が希望する会社の仕事内容や業績、待遇などもさることながら、その企業が持っている「文化・考え方」を事前に調べておくのも大事なのではないでしょうか。
インターンシップや先輩の方にあったりする際に、「上司の方から右を向きなさいと指示された時に、左を向く可能性も探っていいでしょうか」と質問してみてください。そうすると、その会社の「文化・考え方」が見えるかもしれません。
「絶対ダメ」と言われれば従順さが求められ、その質問をしっかりと聞き入れてもらえれば、「人間味」がある可能性があり、「全然そういったことは大丈夫」と言われれば、論理的思考能力を重視する可能性があります。あくまで可能性のレベルですが、、、。
私は、「就職は相性」だと思っています。ご本人のスキルを活かせるかどうか。そこには、「文化・考え方」の一致が大きく効いてくることも心に留めておくといいのではないでしょうか。
最後になりますが、就活生のみなさんが、就活を「視点を広げるスキルアップの場」として活用しながら、成功を収めていけることをお祈り申し上げます。
(追伸です)
参考までに、キーエンスという会社にご興味がある方は、「キーエンス解剖 西岡杏著」のほかに、私の著書「キーエンス流性弱説経営」という本がありますので、両方を読まれるといいのではないでしょうか。前者は、キーエンスの全体像を説明している本で、後者は、文化・考え方を書いている本です。
★書籍へのリンクは、こちら★
代表取締役
神戸大学大学院 経営学研究科博士後期課程中退(MBA)。
日本を代表する高収益企業、キーエンスの元新規事業・新商品企画担当。
退職後、経営コンサルタントとして独立。
「独自性の高い商品開発」だけではなく、店舗やサービス業などでも「オンリーワン高付加価値ビジネス」の構築を支援。
日経ビジネスオンライン、日経トップリーダー、ダイヤモンドオンラインなど掲載多数。
台湾生産性本部、日経BP、日本マーケティング協会、東京大学など幅広い分野で講演。
著書は、[キーエンス流性弱説経営 日経BP社]「最強ソリューション戦略 日本経済新聞出版社」、
「ヒットの原理 日経BP社」、「超高収益商品開発ガイド 日本経済新聞出版社」